ポイント
- 腸は“第2の脳”とも言われ、近年、健康を司る臓器として注目度が増す
- 腸内細菌の種類が多いほど、腸の粘液のバリア機能が高まり、外から侵入してくる細菌やウイルスに対する免疫力がアップすると考えられる
- 腸内細菌のエサとなる食物繊維を、普段の食事でしっかり摂っていくことが、新たな健康への有益なアプローチとなり得る
腸内フローラとは
皆さんは、「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがありますか?腸内には、細菌がおよそ1000種類、40兆個、生育しており、その生態系を「腸内フローラ」と呼ばれています。また、腸には、カラダ全体の免疫細胞の約6割が集まっており、独自の免疫系が存在しています。
腸管神経ネットワークを有しており、腸は「第2の脳」とも言われ、近年、健康を司る臓器として注目度が増しています。
腸内フローラを整える方法
その「腸内フローラ」の乱れは、さまざまな疾患と関係しているといわれています。
「よい腸内フローラ」とは、有用菌がたくさんある状態だと思われがちですが、最近では、有用菌の割合が、有害菌よりも多いだけでは不十分と言われています。
似たような種類の腸内細菌ばかりが育ち、種類が限られた腸内フローラの状態を、“ディスバイオシス”といいますが、こうなると、腸粘液のバリア機能が衰え、免疫力が低下するという報告があります。この報告より、健康な腸の条件は、腸内細菌のバリエーションが多いこと、つまり腸内細菌の種類が多いほど、腸の粘液のバリア機能が高まり、外から侵入してくる細菌やウイルスに対する免疫力がアップすると考えられます。
つまり、腸内フローラの「多様性」が重要になってきています。腸内フローラの「多様性」を保つためには、腸内細菌のエサとなる「食物繊維」をより積極的に摂る食生活をおくる必要があると考えます。
腸内細菌に関する研究結果
ここで、腸内細菌に関与する研究結果を2つ紹介します。
腸内細菌が血糖コントロールに関与していることが明らかに
まず1つ目は、米イリノイ大学の研究で、内分泌学会の第97回年次総会で発表されたものですが、45~75歳の男性116人が参加したものになります。
糖尿病の発症リスクの高い男性を対象とした調査で、血糖コントロールと腸内細菌には強い関連があることが示されました。
研究チームは参加者を1年間追跡して、血糖コントロールの推移を調査をし、参加者に糖負荷試験を行い、血糖コントロールの状態によって、4つのグループに分類しました。((1)血糖コントロールが徐々に改善、(2)血糖値がずっと正常、(3)血糖コントロールが徐々に悪化、(4)血糖値がずっと高い(空腹時血糖値が高い))
参加者の便を調べ腸内フローラの状態を調べたところ、(1)と(2)の血糖コントロールが良好なグループでは腸内細菌が多くみられ、代謝や免疫といった体の機能に良い影響を与える有用菌が多いことが判明しました。 一方、(3)と(4)の血糖コントロールが不良なグループでは、腸内で有用菌が少なく、有害菌が増えていることが確認されました。つまり、腸内細菌が血糖コントロールに関与していることが明らかとなりました。
日本人の2型糖尿病患者では腸内フローラのバランスが乱れやすい
2つ目は、順天堂大学の研究で、日本人の2型糖尿病患者では腸内フローラのバランスが乱れやすいという研究結果を発表しています。
腸内フローラの解析の結果、2型糖尿病患者は対象者と比べて腸内細菌の総数に大きな違いはありませんでしたが、腸内フローラを構成する腸内細菌の割合が異なることや、腸内フローラが乱れることで、腸内でのみ生息しているはずの腸内細菌が血液中で検出され、炎症を引き起こしている可能性があることが、明らかになっております。
腸内環境を改善し、腸内フローラをいい状態に保つためにも、腸内細菌のエサとなる食物繊維を、普段の食事でしっかり摂っていくことが、新たな健康への有益なアプローチとなり得るのです。
監修 : 青江 誠一郎
大妻女子大学家政学部食物学科教授/一般社団法人日本食物繊維学会理事長
出典元
- NHKスペシャル取材班.(2015) 「腸内フローラ 10の真実」主婦と生活社出版