ポイント
- 「短鎖脂肪酸」とは、食物繊維をエサに腸内細菌が作り出す代謝産物の一種であり、食物繊維の多い食事を続けることで、「肥満」や「糖尿病」の予防につながることが期待できる
- 「短鎖脂肪酸」は、腸の健康を保つのにとても重要であることが分かってきており、体を守る“バリア機能”を高めることが、ヒトでも期待できる
- 「短鎖脂肪酸」は、これからの新たな健康バロメーターである
短鎖脂肪酸とは
今、注目されている「短鎖脂肪酸」。 聞きなれない方が多いと思いますが、お酢の主成分である“酢酸”がこの短鎖脂肪酸の一種、と聞くと、少し身近に感じる方も多いのではないでしょうか?
「短鎖脂肪酸」とは
食物繊維をエサに腸内細菌が作り出す代謝産物の一種で、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの物質を指し、その「短鎖脂肪酸」を作る腸内細菌が少ない人には、「肥満」や「糖尿病」の人が多いということが最近の研究で明らかになってきております。
また、肥満者と正常体重者との間で、腸内細菌叢構成比の違いが確認されてたり、ヨーロッパと中国における2型糖尿病のコホート研究によると、人種や食の違いによらず、全ての 2 型糖尿病患者において、特定の腸内細菌種の変化も見られています。
つまり、「短鎖脂肪酸」を作る腸内細菌を増やすことを通じて、腸内フローラをより良い状態にし得る“食物繊維の多い食事”を続けることで、「肥満」や「糖尿病」の予防につながることが期待できるといえるのではないでしょうか。
体を守る“バリア機能”を高めることが、ヒトでも期待できる
「短鎖脂肪酸」は、腸壁の細胞などでエネルギー源としても使われ、腸の健康を保つのにとても重要であることが分かってきています。
また、マウスによる試験ですが、ビフィズス菌とO-157を与えたマウスに、酢酸の基であるアセチル化デンプンを与えたところ、糞便中の酢酸塩の量が大幅に増加し、大腸菌O-157による死亡リスクが下がったという結果もあります。
このことより、ビフィズス菌(腸内細菌)によりつくられた“酢酸”が腸の細胞を活性化し、体を守る“バリア機能”を高めることが、ヒトでも期待できます。 “酪酸”は、免疫細胞の1種「制御性T細胞(Tレグ)」の産生を促すことが、マウス実験で、明らかとなっており、また腸管運動を活発にし、便通を改善する作用があるなど、体によい効果をもたらすことも分かっています。
脂肪細胞の暴走にブレーキをかけるのも短鎖脂肪酸
最後に、肥満は、脂肪細胞と呼ばれる細胞の内部に脂肪の粒を蓄え、肥大化することで起こりますが、もしもの時に備えエネルギー源を蓄えておくのが役目の脂肪細胞は放っておくと、血液中の栄養物をどんどん取り込み続け、さらに肥大化していきます。
この脂肪細胞の暴走にブレーキをかけるのも、この「短鎖脂肪酸」であることがマウスの実験で分かっています。
さまざまな働きをする「短鎖脂肪酸」は、これからの新たな“健康バロメーター”と言えるでしょう。監修 : 青江 誠一郎
大妻女子大学家政学部食物学科教授/一般社団法人日本食物繊維学会理事長
出典元
- NHKスペシャル取材班.(2015) 「腸内フローラ 10の真実」主婦と生活社 出版
- デイビッド・パールマター(2016) 「腸の力であなたは変わる」(三笠書房 出版)